とある中堅企業でトップの実績を誇る営業課長が、ある日パワハラで訴えられた。
その後の不可解な人事。裏に隠された会社の“本当の実態”とは――
そんな謎に満ちたストーリーから展開されていく、池井戸潤「七つの会議」。会社勤めの人間であれば、誰しもが感じるであろう組織の中で悩み・葛藤を池井戸さんは見事な切り口で鮮明に描かれています。
![]() 七つの会議 [ 池井戸潤 ] |
この本を読んで、“組織”とはなにか、“仕事”とはなにかを改めて考えさせられたので、今回は「七つの会議」を読んで感じたことをメモしたいと思います!
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“組織”とはなにか。
それぞれの人間の思惑が絡み合って会社という組織は出来上がっている。
企業のトップは会社の理念と目標を掲げ、それぞれの社員がその目標達成に向けた役割・機能を担う。目標達成を担うのは、その会社を構成する”個人”である。
しかしながら人間は弱い。
上層部の指示により自ずと出来上がった風土の中で生まれる、恨み・嫉妬・自己保身といった負の感情。その中で生じる最初の綻びはほんのわずかだったとしても、いつしか問題はより複雑になり、社会を揺るがす大問題へとつながっていく。
「七つの会議」の特徴は、8章構成になっており、それぞれの章が異なる主人公の視点で描かれていることである。
どれも東京建電という大手電機メーカーの子会社に関係のある人間の視点。
東京建電の営業課長から取引先のねじメーカー社長。東京建電に勤めているOL。
そして、東京建電の営業部、製造部、経理部、カスタマーセンター、親会社の人間の視点。
各章では登場人物の生い立ちから会社人としての想いが詳細に描かれ、様々な方向からの視点を読者は俯瞰的に眺める。
それぞれのストーリーは、底流に一つの重要なつながりを持ちながら、断片的だったものが繋がり、東京建電という会社の大きなひとつの“実態”が見えてくる。そんな面白い構成になっている。
“仕事”とはなにか
会社の命題は顧客創造だとドラッカーが言ったように、目先の利益追求は必ずしも至上命題ではない。
会社が永続的に成長していくために必要なのは、顧客からの信用である。
そうした当たり前の理屈が、いつの間にか、利益至上主義に変わってしまう。どんな手を使ってでも儲けろ。ノルマ達成がいつしか企業の至上命題に変わっていく。仕事の目的が、汚いお金稼ぎだけに変わっていく。
東京建電の抱える闇はまさにこの部分から生じたものであった。
本書の隠された真実は、資本主義に染まりすぎている会社で容易に起こりうることだ。
やり直すチャンスは何度かあったにもかかわらず、隠蔽され温存されていく不正。
過酷を極めるノルマがそもそもの原因だが、人間の弱さゆえに不正がさらなる不正を呼び、簡単には解決出来ないくらいに複雑になっていく。
仕事っちゅうのは、金儲けじゃない。人の助けになることじゃ。人が喜ぶ顔を見るのは楽しいもんじゃけ。そうすりゃあ、金は後からついてくる。客を大事にせん商売は滅びる。
作中のセリフで語られる言葉。正論であるが、現実の世界では幻想にすぎないんだろうか…。
“組織に所属する”とはなにか。
しがないサラリーマンというトロッコに乗って、ときに急カーブに翻弄されつつ、振り落とされないよう、必死でしがみついてきただけだ。
東京建電に務める課長のセリフである。
いつの間にか、組織に染まってしまう、会社のルールの中で生きるようになる。
だからこそ、振り落とされないように人は会社にすべてを捧げて、上のポジションを狙うのだろう。でもその一番上の席はひとつしかない。
いくら会社に奉仕したとしても、いつ会社から見放されるかはわからない。
会社にとって必要な人間なんていません。
いなくなっても代わりの人間がポジションを埋める。それが組織の論理である。
期待すれば裏切られる。その代わり、期待しなけりゃ裏切られることもない。
尽くしてあげれば、会社は裏切らない、そんなのは幻想である。組織の人間の評価などその程度のものだ。
しかし、そうしたストイックなポジション争いと、個人の上昇志向・会社への奉公心が人間の魂に揺さぶりをかける。どんな手を使ってでも成果をあげたいと――。
“組織の中で仕事をする”とは何か
この物語の最後には、東京建電の「不正」がついに上層部だけで隠蔽しきれなくなり、親会社を巻き込んで対応策を検討する会議の内容が描き出されていく。
不正が公のものになれば、東京建電の存続も危ぶまれる。そんな状況の中で、親会社の社長が出した結論は「隠蔽」だった。
これが表沙汰になったときの社会的影響を考えた場合、こうする以外に方法はない。発表しないかぎり、本件は表沙汰になることはない。そうだな。
不正は会社の中で揉み消されてしまうのだ。信用よりも目先の利潤。この会社では、経営者もまた同様の闇を抱えていたのである。
虚飾の繁栄か、真実の清貧か
そんな言葉が問われるシーンがある。
ごまかして、嘘をついて得られる利益で本当に社会は明るくなるだろうか。
それが“本来のビジネス”なのだろうか。
仕事の本質は、社会貢献である。でも個人だと多くの人間を喜ばすことは出来ないから、集団を組んで、組織になって、会社になるのだ。
しかし、会社になった途端に、個人の名前が急に薄くなり、社内の論理が優先されてしまう。だからと言って、そこに誤魔化しや嘘が生まれるということがあってはならない。それが組織の正義だと思う。
オレは魂まで売る商売はしたくない
ノルマ達成のために不正を働いた人物に向けた言葉だ。
でも、こうした魂が揺さぶられる状況におかれた時、自分ならどうする――?
組織におかれた人間なら、誰しもが訪れる可能性のある岐路。
その時に自分の魂は本質を見失わないでいられるのかどうか、もう一度胸に問いかけたくなる物語であった。
最後に!!
池井戸作品の中では“地味”な部類に入ると思いますが、社畜と呼ばれる方々に対して多くの示唆に富んだ、素晴らしい問題作だと思いますよ!
是非、ご覧あれ。
![]() 七つの会議 [ 池井戸潤 ] |