【感想】「トーマス・ルフ展@MOMAT」を見て“写真”と“絵画”の境界線がよく分からなくなった。

やあやあ、能ある鷹h氏(@noaru_takahshi)だよ。

資格試験を受験しに東京に行ったので、竹橋の東京国立近代美術館で開催されている「トーマス・ルフ展」を見に行ってきました。

ドイツの現代写真家の展覧会といえば3年前に六本木の国立新美術館で開催された「アンドレアス・グルスキー展」が記憶に新しいところ。

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その時は東京だけで12万人以上の動員があったそうな。(その後の大阪でも7万人の動員で合わせて20万人近く!すごい!!)

ルフとグルスキーはともにドイツのベッヒャー派の同門写真家。初期作品は似た雰囲気を感じますが、その後、より静的で完全性を持つ写真をストイックに追及するグルスキーに対して、ルフは見たことの無い写真表現の可能性を追求していくのが印象的でした。

本展は初期のシリーズから近作、未発表の新作に至るまで、ルフのこれまでの活動の全貌を明らかにしようとする、国内初の大規模な個展です。

今回はそんな「トーマス・ルフ展」について感想をメモしておこうと思います!

(※以下より、本展についてああだこうだ書いてみましたが、もし本当にトーマス・ルフ展を楽しみたいのであれば、まずは余計な事前情報抜きで作品の前に立つことをオススメします。本展の作品群は、写真の一般的な常識をいい意味で裏切ってくれるので、より作品を衝撃的に受け止められるかと思います。)



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「トーマス・ルフ」ってどんな人?

トーマス・ルフ(1958-)は、ドイツを代表する現代写真アーティスト。1977年から1985年の間、デュッセルドルフ美術アカデミーの写真学科にて、ベルント&ヒラ・ベッヒャー夫妻の元で写真を学び、彼らから大きな影響を受けました。

ベッヒャー夫妻の同門に、アンドレアス・グルスキーやトーマス・ストルゥース、カンディダ・へーファー、トーマス・デマンドら現代アート界を代表する著名な写真家が多数輩出されており、彼らはベッヒャー派と呼ばれます。

トーマス・ルフも含め、ベッヒャー派の写真の特徴は、「タイポロジー(類型学)」という手法を取ることで有名です。

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例えばこの作品。同じ撮影方法とフォーマットを用いて撮影した一連の被写体をまとめ、似たもの同士を比べることにより、浮き上がってくる差異や共通性などを探ろうとする写真表現です。

類型学は主に考古学などの研究の分野で使われることの多い手法ですが、美術や建築などの分野、あるいは考現学においても応用されており、写真表現としてこの手法を使い始めたのが何を隠そうベッヒャー夫妻なのです。

「トーマス・ルフ展」会場の様子!!

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作品掲示は、約120点。当日は、東京国立近代美術館のMOMATコレクション(常設展)にも無料で入れます。常設展も超充実したラインナップですので是非見ることをオススメします。現在はドイツ現代写真の特集コーナーが設置されており、グルスキーの作品も見ることができます。

金曜日は20時までやっているので仕事帰りにも来れますね!!

なんと本展覧会は全作品で写真撮影がOK!!(※フラッシュ禁止等条件付) これは嬉しい!嬉しくてたくさん写真を撮りました。

アンドレアス・グルスキー展ではまったく撮影不可でしたので、ありがたい話ですね。

今回の展覧会で出展された作品群は全部で18シリーズ。シリーズごとに大きくテーマが異なり、まるで別の人間が制作したかのような特徴的な表現がなされているで、見ていて飽きません。

以下、気になったシリーズを抜粋してご紹介します。

「Hauser(ハウス)」シリーズ

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第二次大戦後にデュッセルドルフに建てられた集合住宅や企業の社屋など、日常的に見られるごく普通の建築を撮影したシリーズ。

ルフの初期作品のシリーズであり、タイポロジーの表現を用いて、同じタイプの建築を同じような撮影方法で撮影し、その集積の上に背後にある法則や力学を見いだします。この当時から二枚のネガを接合するなど、機械的な操作により作品を恣意的に変化させて提示しました。

「Portrait(ポートレイト)」シリーズ

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一見ありふれた証明写真のようなポートレート。しかし実物大より巨大なサイズに引き伸ばされており、人間の顔の細かいしわやデキモノまでが鮮明に映る写真です。

遠目から見ると普通の証明写真のようだけれども、近づいてみると証明写真以上の情報が含まれているもの。「証明写真」という厳格なフォーマットに収まっているからこそ、巨大なスケールによる形式の逸脱が違和感として鮮明に現れ、写真と観客、写真家と被写体といったポートレートをめぐる本来の関係性について考えさせられます。

「negatives(ネガティブ)」シリーズ

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2014年に発表されたシリーズ。アナログ写真の制作過程においてネガはプリントをつくるための原版ですが、改めて画像として見直すことで、絵画的な美しさを見いだすというものです。

「jpeg」シリーズ

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圧縮率を高くするとブロック状のノイズが発生してしまうというJPEGフォーマットの特性を作品に活かした2004年の「jpeg」シリーズ。「デジタル画像の解体」をテーマにしており、ブロックノイズの大きさが部分部分のデータ密度によってきめ細やかさが異なるため、独特のモザイク画のように仕上がります。

パソコンの画面で見ると普通に圧縮率の高いガビガビの写真に見えますが、実際の作品はかなり大判であり、そのノイズもかなり大きいことから、遠くからの印象と近くからの印象が全く異なりとても印象的な作品になっています。

「nudes(ヌード)」シリーズ

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1999年に発表された「nudes」シリーズは、インターネット上のポルノサイトから取ってきたデータを極限までぼかして、ヌードの構造がわずかに認識できる程度まで加工した「画像」を作品としています。

jpegシリーズと同様にテーマは「デジタル画像の解体」ですが、画像形式そのものの面白さではなく、ポルノ画像の生々しさが解体されて、美しさのみを取り出したかのような作品となっていたのが印象的でした。

「Photogram」シリーズ

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フォトグラムとは、1920年代後半にマン・レイらによって開発された写真技法で、カメラを用いずに感光紙の上に物を置いて直接露光して、その影や、透過する光をかたちとして定着する技法です。

ルフは、最新のデジタル技術を導入し、独自の味わいを持つ光の造形を作り出し、フォトグラムの新たな表現手法を開拓しました。写真というより、もはや完全な抽象絵画です。。。

「Press++」シリーズ

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2015年から製作されているシリーズ。マスメディアから入手した写真原稿の表面と裏面を同時に1つの画面に統合しています。

巨大なサイズに引き伸ばされることで、殴り書きの文字や修正点を記す記号一つ一つによって完成品としてイメージが世にでるまでの時間軸までもが解体されているようです。

展覧会の感想

「写真」とは、「カメラを使って/3次元の被写体を写し/2次元に現像したもの」だと思っていました。

でも違いました。その常識はこの展覧会の途中で脆くも崩れ去りました。。

今回の展覧会で出展されている18シリーズのうち、そのほとんどが、私のイメージする「写真」ではありませんでした。

展示作品の多くは作者自身が撮影したものではなく、制作過程にカメラすら介在しない作品もあります。ルフの作品には必ずと言っていいほど“違和感”が潜んでいます。

その違和感は、ルフがその時代の状況や技術にいち早く反応し、既成概念にとらわれずに写真表現のあり方を覆そうとしてきた結果なのだと感じました。

ネット等から拾ってきた画像を流用・加工・編集するという試みや、カメラすら使わずに光や物体の動きを捉える試みは、写真を構成する原初的な成り立ち(光をフィルムやセンサーで捉え、三原色の光の素子によって記録する)に立ち返り、何が「写真」を作品足らしめているのかを追求していく思考実験であり、見ていてとてもスリリングでワクワクします。

ルフにとって写真という媒体は、決して現実を正確に写すものではなく、絵画を描くための”筆”や”キャンバス”なのかもしれません。

写真というと「社会性」をはらむものというイメージがありましたが、ルフの作品は社会的背景はあるにせよ、そのすくい取り方が写真の技巧的な表現に結び付けるところが面白いです。

最後に!!

写真の展覧会というとなんやかんや時代背景や写真に潜む意図を読み取るのに難しさがあったり、そもそも「この構図がよい!」とか技巧的な話になると初心者は全くついていけなくなってしまいますが、ルフ展の場合はそれぞれのシリーズのコンセプトが明確で、「何を表現したかったのか」というルフ自身の企てが理解しやすいと思います。

なによりも大版写真を用いて作品自身のもつ美しさ、面白みが十分に伝わってきます。今回の展示会では、写真の持つ繊細さと大胆さをいずれも味わえると思います。

最近新しい刺激が足りないなとお考えの方は是非ともルフ展に行ってみてください。常識にとらわれている人ほど、頭をがつんと石で叩かれたような衝撃があるんじゃないかと思います。

【基本データ】

【名称】トーマス・ルフ展
【会期】東京:2016年8月30日~11月13日、金沢:2016年12月10日~2017年3月12日
【会場】東京:東京国立近代美術館、金沢:金沢21世紀美術館
【公式HP】http://thomasruff.jp/


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鷹h氏 (@noaru_takahshi) の戯言

鷹h氏
会場もゆったりと使われているので、多少混雑してもストレスは少なめに観覧することができると思います!!

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1 個のコメント

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