やあやあ、能ある鷹h氏(@noaru_takahshi)だよ。
携帯電話でいつでもどこでも撮影できて、なんでもかんでもSNSにアップする人が増えている昨今。
小洒落た風景やフォトジェニックな食べ物などに加えて、「アート作品」をSNSなどでよく見かけるようになりました。
私は美術館や博物館の展示を見に行くことも多いのですが、たしかに最近、美術作品を撮影できる展覧会が増えているような気がします。
実際に東京都議会でも下記のような議論も起こっているようです。
東京都立美術館や博物館に展示された作品の写真撮影について、都は5日、解禁を検討する方針を明らかにした。同日の都議会で早坂義弘議員(自民)の質問に答えた。作品保護を目的に撮影を禁じる場合が多いが、施設の魅力向上のために取り組むという。
多くの海外有名美術館では写真撮影が許可されているため、早坂氏は「海外観光客が増える2020年東京五輪・パラリンピックに向けて原則解禁とすべきではないか」と質問。これに対し、中嶋正宏・生活文化局長が撮影機会を増やす考えを示した。ただ、所有作品の展示が一般的な海外施設と違い、都立施設は貸借作品が多いため、「フラッシュ使用による影響などに配慮しながら、出品者から許可を得られるように働きかける」などとした。
同じ質問には、小池百合子知事も「全然OKだと思っております」と答えた。
小池知事も撮影解禁には協力的なようですね!
フォトジェニックかつウィットに富んだアート作品を撮影できるようになることは、アート人口拡大のためにも一見歓迎すべき流れのようにも思えます。
でも、なんで美術館の写真撮影って禁止なの?撮影禁止になった経緯にはそれなりに理由があったハズ!
今回は美術館で撮影禁止の理由とその制約が最近になって緩和されてきた経緯、想定される弊害について考えをメモしておこうと思います!
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なぜ美術作品の撮影はNGとされてきたのか
なんとなく美術館内では携帯やカメラをいじってはいけないイメージがありますが、美術作品の撮影は不可とされてきた理由が知りたい!
色々ネットで調べてみて、自分なりにまとめると、理由は以下の4点に集約されます。
1.フラッシュによる作品への影響
美術作品において「展示」と「保存」は相反する問題として扱われてきました。
例えば、照明器具から発せられる光は作品の劣化に悪影響を与えていると考えられており、特に日光や蛍光灯などから出る紫外線は美術作品が退色する等の悪影響があります。
通常、美術作品のガラスケースや蛍光灯管などには、紫外線除去のためのフィルム・塗料などが施されています。
また、光の量によっても作品の劣化を進行させてしまうことから、作品の形態によって照射できる光の量が定められています。
JIS照明基準総則(美術館、博物館)では以下のように照度が定められています。
- 1,000 lx 彫刻(石、金属)・造形物・模型
- 500 lx 彫刻(プラスタ、木、紙)・洋画
- 200 lx 絵画(ガラスカバー付)・日本画・工芸品・一般陳列品
- 100 lx はくせい品・標本・ギャラリー全般
- 100 lx 収納庫
- 20 lx 映像・光利用の展示部
他にも、照明学会の屋内照明基準、各美術館・博物館の照度基準、各国の推奨照度基準、国際照明委員会(CIE)の基準等があります。
色々な基準があるんですねえ。。。
美術館の展示企画の段階で、展示対象物により光・放射の影響を考えて照度を決定します。
こうした厳密な基準が設けられている照明なので、上記の照度をはるかに超えるフラッシュは作品に対して深刻な影響をもたらす可能性があると考えられているのです。
でも、実際のところはほとんど影響がないという説もあります…
2.作品の著作権・所有権
この部分の理由が一番大きい理由なのではないでしょうか。
個人のコレクションや他の美術館から作品を借りて開催する企画展では、貸主の同意を得て初めて撮影するという不文律のようなものがあります。それ以外にも著作権保護や借用の際の契約上、無断撮影が禁止されることが多いです。
じゃあ、仮に展示される美術作品が美術館の所有物だったらどうなの?自由に撮影可能に出来るの?
教えて!gooに回答がありました。
民法の第206条では「所有者は、法令の制限内において、自由にその所有物の使用、収益及び処分をする権利を有する。」とあり、絵画の所有者は収益を含めて管理する権利を認められています。これは著作権とは別の権利です。
著作権については、著作者に展示権(著作権法第25条)が認められていますが、美術館はすでにその権利について処理を済ませています。写真撮影は、確かに複製で、これには複製権が関わります。細かく言えば、その文脈で、著作権の制限である私的使用が認められることはあります。
現実に、回答者もヨーロッパの各地の美術館を周りましたが、写真撮影を認めるところと、認めないところが併存しています。認めている場合も、いわゆる私的使用を想定していると考えられます。その場合でも、プロ写真家や商業用の撮影では環境設定などの理由で許可制になっています。公共的な美術館ほど制限が緩やかのようです。
所有権の利用という観点では、美術館が写真集などを発行することもあり、ビジネスですから、一般の撮影を禁止することもあるでしょう。
所有権に関して、日本の判例では、過去に、ガス気球事件とか、長尾鶏事件、クルーザー事件とかあり、他人の所有物を第三者が撮影して収益したことで侵害と認定されたことが知られています。
まとめると、ご質問の場合、美術館が撮影禁止する場合と言うのは、著作権より前の所有権を根拠にしていることが考えられます。
また、施設管理者の権限が認められていますから、入場時に諸規則が示され契約をすることで、場内の行為が制限できます。
かりに美術館が撮影禁止にしていない場合には、著作者の著作権が及ぶことはあり得ます。例えば、私的に写真集を作って販売するなどは侵害となることは考えられます。
なるほど。簡単に言うと、著作権法上、私的利用の写真撮影の範囲内ではどの美術館でも作品の撮影は可能ということですね。
しかし、多くの美術館では原則写真撮影NG。これは美術館の所有権と施設管理権によるものだと言えるわけです。
こう考えた場合、常設展(コレクション展)は美術館が所有するコレクションだけで構成できるので、所有権を持っている美術館が認めさえすれば、写真撮影は可能となります。
最近では東京国立近代美術館(MOMAT)のコレクション展や東京国立博物館(トーハク)の常設展示なんかも(私的利用の範囲内で)写真撮影可能ですし、美術館側が撮影を許可する流れは進んでいくのでしょうね。
3.館内の混雑・混乱の緩和
撮影を行う事によって、多くの人が作品の前で立ち止まります。
空いている展覧会では全く問題になりませんが、鬼混みしているような人気の企画展等の場合、どうしても混乱を生んでしまうことが想定されます。
具体的には、
- 作品鑑賞の邪魔になる
- シャッター音が鳴るのが不愉快
- 作品の前で自撮りする奴がウザい
- 鑑賞に時間がかかってしまう
- 撮り方のマナー悪い人が出てくる
みたいなことが懸念されます。実際、写真撮影可能な展覧会にいくと上記のような不満を感じることもあります。
混んでいる展覧会の場合は写真撮影を禁止しても混乱すると思いますけれども、立ち止まることすら許されない人気の展覧会の場合はなかなか写真撮影OKとは言い出せないのではないでしょうか。
4.美術作品に集中してもらう
周囲への迷惑もありますが、実は写真撮影に集中することによって、作品をちゃんと鑑賞しなくなるという弊害も出てきます。
伸二のブログ/ 異見万華鏡によれば、
これはアメリカのPsychological Scienceという雑誌に載ったもので、その論文によると、美術館参観者での比較研究の結果、実際に観た物の美術品をいちいち写真に撮っている人の場合には観ていた美術品そのものやその印象を記憶しにくくなることが示されたとのことです。つまり、簡単に写真をやたらに撮りながら鑑賞していると実際の美的鑑賞の印象が薄れることにも繋がることです。このことは美術を鑑賞するという本来の意義が薄れ、ただ単に写真を撮るために美術館に入ることになることだけを間接的に示しているのかも知れません。
このことは鑑賞するという精神的・心理的行為が単純に写真を撮るという物理的行為によって妨げられ、それぞれの印象が薄くなるのかも知れません。その証拠にはここに挙げた論文では、このような心理的・精神的変化は観た美術品をズームしながら撮っていた場合には記憶は妨げられなかったとのことです。つまり、うがった観察をすれば、ズームをするという物理的行動により美術品鑑賞という意識的な認識があまり妨害されないのかもしれません。
このように理解すると、ただ単なる「撮影禁止」の張り札よりも、例えば「当館では鑑賞者の皆さんの美術的鑑賞を最大限に発揮して頂く目的から、当館内での撮影はご遠慮ください。写真を撮りながら鑑賞することにより、残念ながらその鑑賞感,余韻感が薄れてしまうことが科学的にも立証されているのです。」くらいに書き換えてはどうでしょうか。
とのことです。
確かに写真を撮ることに熱中するあまり、本来じっくり鑑賞すべきはずである美術作品を単なる被写体としてしか認識しなくなってしまう実感はあります。
作品の意味やそこから伝わってくる余韻を感じるのがアートの良さなのに!
5.ギフトショップの売上
最後は下世話な話ですが、図版や各種グッズの売れ行きが悪くなるのではという懸念もあるようです。
でも、最近は写真撮影可能な展覧会でもあっという間に売り切れてしまうグッズも多くありますし、要するにグッズのクオリティ次第なのではという気がします。
例えば図版なんかはプロの取った写真とちゃんとした解説がついていますよね。素人が撮影した写真なんかと比較するまでもなく価値のある内容になっていると私は思います。
美術作品の撮影可能とするメリット
以上まで撮影不可とする理由を考えてきましたが、逆に言えば上記の問題点をクリアすれば撮影可能とすることが出来るわけです。
じゃあ、美術作品を撮影可能とするメリットって何なのでしょうか?
思うに以下の3点が考えられます。
1.よりアートに愛着を持ってもらうことができる
感動した美術作品に出会った時に、その作品を写真として記録しておくことで、よりアートを身近に感じたり、気になった作家さんを簡単に覚えることが出来ます。
その写真を手掛かりに作家さんのことを詳しく知ることが出来たり、調べていく過程で新しい作家さんを知ってお気に入りの作家さんを増やしたり、美術の知識を深めていくことも出来ます。
また、ふとある時に昔撮影した美術作品を見返して、その時の感動が蘇ったり、なにか別のアイディアが下りてくることもあるかと思います。
先程は写真撮影をすることで美術鑑賞に集中できなくなる恐れがあると書きましたが、ファインダー越しに作品を見ることによって、どうすればフォトジェニックに魅力的に作品を撮影することができるのか、つまり「自分がこの作品のどこに惹かれるのか」を深堀することができるというメリットもあります。
もちろん自分の眼でみることによって、作品の色彩、作品全体の大きさ、場の空気感なんかが良く感じられますが、カメラ越しに見るとより作品のディテールに眼がいき、結果注意深く作品を観察するという効果もあるんじゃないかと思います。
2.展覧会のPRにSNSやブログを活用できる
お客さんのアートへの関心を高めることは美術館にとっても大きなメリットがあります。
今やSNSでのクチコミは、マスメディア広告に匹敵する観客動員効果があることが知られています。
村上隆さんの展覧会や、しりあがり寿さんの展覧会ではガンガンSNSにアップして下さい!との説明書きまであったくらいです。
現代アートなどの楽しいインスタレーションであればなおさら写真や動画を拡散するのが一番効果的です。
twitterやFacebook、instagramやブログなどで写真を見てもらうことで、「面白そう!」「こんなにオススメされているなら行ってみたい!」と、お客さんの連鎖を生むことが出来ます。
3.外国人観光客への対応
実は日本以外の国では、美術館博物館は撮影OKの所も多いのだそうです。
例えば海外の有名どころでは、ロンドンのナショナルギャラリーや大英博物館、パリのオルセー美術館やルーヴル美術館、ワシントンのナショナルギャラリーやスミソニアン博物館、ニューヨーク近代美術館(MoMA)なども撮影可能みたいです。
そういえば台湾のアジア現代美術館行った時に他の人が写真撮影していたのを見て、恐る恐るカメラを出したことを思い出しました。
日本を訪れた観光客の方々に本国と同様のルールで鑑賞を楽しんでもらおうという狙いですね。
特に日本文化をテーマにした展覧会なんかは海外の方には人気でしょうし、こうした展覧会が撮影可能になると日本の魅力を海外発信できる良い機会になるのではないかと思います。
撮影可能の展覧会で気を付けるべきマナー
今後、上記のようなメリットを重視して撮影可能とするような展覧会が増えていくと思います。
しかしながら、そうした場合でも気を付けなければいけないことがいくつかあります。
1.写真の発信ルールを守る
撮影可能な場合でも、その撮影した写真が「私的利用」の範囲までなのか、SNSやブログなどの公的な場に発信してもよいのかは、著作権者が指定したルールに従う必要があります。公式サイトであらかじめ確認していきましょう。
例えば、多くの芸術祭では撮影した写真をSNSにアップすることが認められていますが、SNSや写真共有サービスなどに投稿する場合は、作家名と作品名の記載が必要になります。こういった場合は題名も撮っておくと便利です。
2.他の人の鑑賞を妨げない
写真撮影を許可されているところでも、観客の邪魔になるとの理由からフラッシュ、三脚、自撮り棒は禁止されている美術館がほとんどです。
また、実際に撮影可能な展覧会に行ってみると思うのが、「カシャッ」「カシャッ」というシャッター音。
携帯で写真撮影をすると大きめシャッター音がなりますが、これは盗撮事件が多い日本特有の工夫です。
日本では致し方ないことなのですが、例えば気遣いとして、スピーカーを指で塞いで音量を減らす、音量の小さいカメラアプリを使うなど小さな配慮は出来るかと思います。出来るだけ他の人の気が散らないような工夫がお互いの快適な鑑賞環境を生み出すのではないかと思います。
最後に!!
以上、さっくりと美術作品の撮影禁止問題について考えてみました。
美術作品が気軽に撮影できるというのは単純に喜ばしいことです。コレクション展だけでなく、企画展でも撮影可能なものが増えていくことに期待したいですね。
まだまだ借用先との契約という実務的な問題や鑑賞マナーの問題など、色々と乗り越えるべき課題は残っているかと思いますが、変わりゆく社会のルールの中で、美術館や展覧会でも、新しい時代の新しい鑑賞ルールやマナーを考える時期が来ているという気がしています。
美術館での作品撮影について、どのような具体策が必要なのか、国や行政も含めて、美術関係者、一般の観客も含めて考えていきたいものですね。