【感想】『堀部安嗣展 建築の居場所@ギャラリー間』場の記憶を継承する創作活動とは。

やあやあ、能ある鷹h氏(@noaru_takahshi)だよ。

東京乃木坂のTOTOギャラリー・間で1月20日から開催している「堀部安嗣展 建築の居場所」と、1月27日に開催された堀部さんの講演会に行ってきました。

私が建築学生だった頃、初めての住宅設計課題でなにをどうしたらよいか分からなくて、初めて買った建築の参考書が堀部さんの作品集「form and imagination」でした。

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ふと入った本屋さんで堀部さんの作品集をパラパラめくった時の衝撃、そのシンプルで強い形と内部空間の重みや静謐さにとても惹かれたことが思い出されます。

堀部建築の特徴は、空間を構成する素材(木や石、コンクリートなど)の巧みな組み合わせや、無駄のない精緻なディテールとプランニング、装飾を排したシンプルで端正な外観です。

新しい形の発明や奇抜なコンセプトが注目されやすい建築業界ですが、堀部建築はそうした動向とは一線を画す、一見地味な建築です。しかし、その場にある環境を巧みに取り込み、人がそこでどう過ごすか、その快適性を緻密に追求されています。

今回は「堀部安嗣展 建築の居場所」の展示の様子や講演会の感想についてメモしておこうと思います。



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堀部安嗣氏とは

略歴は以下のとおりです。

神奈川県生まれ。1990年、筑波大学芸術専門学群環境デザインコース卒業。1994年、堀部安嗣建築設計事務所設立。2002年、「牛久のギャラリー」で第18回新建築賞吉岡賞を受賞。2003年から東京理科大学非常勤講師、2007年から京都造形芸術大学大学院教授を務める。2016年、「竹林寺納骨堂」で日本建築学会賞作品賞を受賞。

建築界で多くの賞を受賞しており、これまで住宅建築をメインに寺院施設、集会所など80を越える作品を手掛けられています。

公式サイトによれば、『建築の居場所』と名づけられた本展のタイトルには、自然との関わりが希薄になっている現代において、私たちに本来備わっている「心地よい空間」の記憶を取り戻し、それぞれが本来の居場所を見つけて欲しいというメッセージも込められています。

展示内容の様子をレポート

講演会で堀部さんが話されていた内容と合わせてご紹介します。

3階展示室。ギャラリー・間の前回展示はトラフ建築設計事務所のポップで爽やかな展示でしたが、一転変わってかなり硬派な展示内容。「模型」と「図面」といういわゆる王道スタイルの展示です。

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2016.11.29

中央には白い展示台。周囲には様々な椅子が置かれ、座って模型に触ったり、図面を読んだりすることが出来ます。

机の上段には1/100竣工模型が26点。年代毎に作品が並べられています。

下段には図面冊子や、作品図録のほか、堀部さんがお好きな音楽や映画などが置かれていました。いずれも手にとって閲覧出来ます。置かれている映画もなんとなく堀部さんのイメージと合っています。

周囲の壁面には代表作の図面や写真、模型、素材サンプルなどが展示されています。

「イヴェール ボスケ」。のどかな田園風景の中に立つカフェ併設の洋菓子店。後述する4階展示室のドキュメント映像にも登場します。

壁に設置された模型はなんとチョコレートで出来ていると書いてあり驚愕。オーナーが本展のために制作したそうです。

「竹林寺納骨堂」。2016年の日本建築学会賞を受賞した納骨堂。敷地環境との調和、RCと木材を組み合わせた構法、漆喰や土壁といった素材の扱い、細やかなディテールなど、堀部さんの代表作というべき美しい仕上がり。現在は庫裏・位牌堂・本坊など、境内全体の計画が進行中です。

「せとうちクルーズ船 guntû(ガンツウ)」。今年9月に就航予定の宿泊型小型客船です。尾道を拠点として瀬戸内の景勝地を周遊する計画です。

3階デッキには軒の深い屋根は尾道の集落の屋根ともどこか似ており、その軒下には縁側が設えられています。ここから見る瀬戸内の景色はとても美しそうです。

展示室の角には、堀部事務所の日常風景を再現した場所があります。CADは使わずに、今でも図面は手描きするという堀部さん。愛用の製図板が置かれていました。

中庭。竹林寺納骨堂でも使われている実物のベンチが置かれています。

スピーカーでは堀部建築の現場で収録された音が流れています。

4階展示室では、短編ドキュメンタリー映画が上映されています。制作はテレビマンユニオン。撮影はNG。

代表作である「竹林寺納骨堂」や「阿佐ヶ谷の書庫」を含む14作品が取り上げられ、建築と月日を共にしてきた施主へのインタビューや、そこを訪れる人びとの様子、周囲の環境との関わりなどが収録され、時間によって移り変わる建築の表情を見ることができます。

堀部建築のドキュメンタリー映像を見ていると、建物そのものだけではなく、空間の光と闇や窓から見える緑といった視覚、小鳥のさえずりや人々の声といった聴覚、素材や料理の匂いといった嗅覚、風の動きなど触覚といった感覚が集合して建築を体験していることに気づきます。

半年を掛けてじっくりと撮影を行ったそうで、30分間にそのエッセンスが凝縮されています。

講演会の様子

展覧会を見た後、霞が関に移動し、堀部さんの講演会へ。ここでは堀部さんの生い立ちから近作に至る過程、堀部さんが興味を持っている事柄が語られていましたが、その中でも印象に残っている話を3つ挙げたいと思います。

「記憶の継承」

堀部さんは講演会の中で、「建築にはbuilding(人の身体を守るもの)とarchitecture(文化、記憶、思想の継承)という二つの意味があってどちらの目的も達成する必要がある。」という風に述べていました。

特に堀部さんは<記憶の継承>を重視しており、それは「道路」や「建物」といった変わらないモノによって達成されうると考えているそうです。新たに建物を設計する場合でも出来るだけ既存の動線や風景は残すようにしているのだとか。

堀部建築を見ると、新築の建物なのにも関わらず、どこか懐かしいような、以前からそこにあったモノのような錯覚に襲われるのは元々建築の周辺に存在していた繊細な風景を残しながら、設計を施すからなのでしょう。

「死と生が共存する建築」

堀部建築の中でも評価の高い「阿佐ヶ谷書庫」「竹林寺納骨堂」はいずれも“死者”を弔う建築です。

堀部さんは「街の中で“寺”と“墓”は不変であり、記憶の継承が行われる場所である」との持論から、アスプルンドの「森の葬祭場」や、「宗廟」、「ル・トロネ修道院」、カルロ・スカルパの「ブリオン家墓地」等を例に挙げて、生と死が共存する世界に建築の居場所があると感じるのだそうです。

確かに堀部建築には、そこに緊張感や尊厳さを感じる空間が多く存在します。それは建物を利用する人だけではなく、木々や本、仏壇といった「他者」の存在を想起しながら設計を行なっているからなのかもしれません。

「建築家としての振れ幅を大きくしたい」

講演会の最後に、デビュー作<ある町医者の記念館>を紹介していた時のことでした。

「自分でも一番の問題作」と語るこの作品。シンプルな形態とその土地ならではの素材感が堀部建築の代名詞ですが、この建築はそうした作風とは大きく異なり、周辺環境からは明らかに逸脱した外観や素材の使い方がなされています。

工事が始まると現地に移り住んで現場に毎日通っていたそうなのですが、地元の方からも変わった建物と認識されていたそうで、

「誰にも評価されないだろうなと思いながらも、自分に正直に設計した。」

「この処女作を設計した後悔や喜びが、今でも私の創作活動に付きまとってくる。」

といった説明がなされていました。

意外と思われるかもしれませんが、現在でも堀部さんはスタディの段階で多くの特殊な形態を考えているのだそうです。

「建物を設計する時、周辺環境への調和と自らの欲望にどうしようもない矛盾が生じることがある。」

「建築家としての振れ幅を大きくしていきたい。ただし、自分が生み出したものには責任を持たなければならない。」

合理的でシンプルな形を追求するモダニズムを訴えていた建築の巨匠、ル・コルビュジエが晩年に複雑で造形的な建築を多く設計したように、建築家のベクトルは時期によって大きく変わることがあります。

これまでの堀部建築の繊細さと、堀部さんの奥に潜む造形的な欲望がこれからどのような展開を見せていくのか、今後の堀部建築がますます楽しみになりました。

最後に!!

これからも建築の圧倒的な“質”を追い求めていきたい」とのコメントで講演会を締めくくった堀部さん。

建物のプロポーションや素材、ディテールといった“一見して地味な部分”に圧倒的な質を求めてきた堀部さんらしい素晴らしい講演会でした。

そんな堀部さんの深い建築愛にあふれた本展覧会は、作品量、質ともに大満足の内容になっております。

『堀部建築は「去りがたい」と言われる』というメッセージがドキュメンタリー映画中でも述べられていましたが、まさにこの展覧会も「去りがたい」ものでした。映像もとても良いけれど、実際に堀部建築を体感してみたいという欲求に駆られます。

皆さんも是非とも本展に足を運び、腰を据えてじっくり堀部建築を鑑賞してみてはいかがでしょうか。

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休館日:月曜・祝日
入場料:無料
公式サイト:http://www.toto.co.jp/gallerma/ex170120/index.htm

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鷹h氏 (@noaru_takahshi) の戯言

鷹h氏
講演会中もダジャレを多用するなど、お茶目な一面も素敵なお方でした。

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