やあやあ、能ある鷹h氏(@noaru_takahshi)だよ。
いやあ、秋ですね。爽やかな秋はお散歩にも、芸術鑑賞にもちょうど良い季節。
そんなわけで東京出張のついでに9月22日から東京都庭園美術館で開催されている「クリスチャン・ボルタンスキー アニミタス-さざめく亡霊たち」を観てきました。
現代美術界の巨匠、クリスチャン・ボルタンスキーの東京での初個展。
ボルタンスキーは場所や人々の記憶を手がかりにした大規模なインスタレーションで知られるフランスの作家であり、歴史の中で風化する記憶の蘇生、匿名の人々の生と死について、初期作品から現在まで一貫して表現してきました。日本も多くの作品を残しており、越後妻有大地の芸術祭の「最後の教室」、あるいは、瀬戸内国際芸術祭の「心臓音のアーカイブ」などが有名です。
個人的にはボルタンスキーといえば、越後妻有の「最後の教室」が印象的。
廃校となった小学校の校舎の1階から3階まで全部を使った大規模なインスタレーション。風、熱、光、音、におい、地面の感触。暗い中で感覚が研ぎ澄まされ、ホラー映画の主人公になってしまったかのような切迫感。人の記憶、死者の追憶をテーマとしてあれだけ鮮烈で印象的で迫力のある展示をこれまで見たことがありません。
そんなわけで今回の個展も期待大だったわけですが、実は今回の展示は2019年に日本で開催予定の大回顧展の序章との位置づけで、庭園美術館の館内と上手くコラボレーションしたミニ回顧展といった印象の展示内容でした。
とても見どころの多い展示会だったので、感想をメモしておこうと思います!
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クリスチャン・ボルタンスキーってどんな人?
ボルタンスキーは1944年パリ生まれ。ユダヤ系フランス人を父親に持つ、フランス人の現代美術家です。独学でアートを学び、1980年代からは第二次世界大戦やホロコーストを連想させるインスタレーションを生み出してきました。
パリで開催されたMonumenta 2010での作品。
ベニスビエンナーレ2011のフランス館での展示作品。
作品の特徴は、一貫して「名も無き匿名の人々」についての生死、記憶の儚さをテーマとしていること。やがて風化し、忘れ去られてしまう無数の人たちの死。その記憶の切実さやはかなさ、それらの継承について、様々な印象的な手法によって我々に訴えかけてきました。
実際の会場の様子をレポート!

私が行ったのは10月2日(日)15時頃ですが、ANTIBODIESの「惑星共鳴装置」の公演と重なっていたため、15分くらいチケット購入に並びました。旧朝香宮邸内部もそれなりに混んでましたね。

本館内の写真撮影に関しては、平日(月~金)は撮り放題、土日祝日はNGとなっています。私が行ったのは日曜日だったので写真を撮ろうとしたらしっかり怒られました。ええ。
全然内部の写真撮れなかったので、内容が気になる人は実際に行ってみてください!
以下、作品の気になったところ。
さざめく亡霊たち
館内に足を踏み入れると、そこには作品らしい作品はほどんど見えません。
趣向を凝らした屋敷の内部を眺めていると、突然聴こえてくる亡霊のささやき。
何か大事なことを話しているようで、独り言をつぶやいているようで、なんとも捉えどころのない内容のささやき。
庭園美術館として活用されている旧朝香宮邸は重要文化財でもあり、インスタレーションに合わせた部屋の改造が難しい中、ボルタンスキーは「声」によって建物とのコラボレーションを試みました。
「旧朝香宮邸での展覧会が決まった時、最も興味を抱いたのは亡霊の存在です。旧朝香宮邸を訪れて、昔のパーティーで人々が踊っているのを感じました」
「どんな場所もそうであるように、歴史がある場所にはそこに関わる人たちの亡霊が住んでいます」
ボルタンスキーが感じたという亡霊の存在。その存在を我々に伝えるように数多くの場所に亡霊からの声を配置しています。普段は展覧会のために撤去されている家具や調度品もそのまま配置されています。この屋敷で暮らしたであろう人々に思いを馳せながら、館内を巡ります。
影の劇場
1階のホールを堪能した後、2階に上ると、3室にわたって「影の劇場」が展示されています。
段ボールやブリキといった身近な素材を用いて手づくりしたオブジェを使い、それらをスポットライトで照射することによって、光と影のインスタレーションを生み出しています。
いわゆる影絵なのですが、首吊りガイコツやコウモリなどの少しコミカルな人形がゆらゆらと風にゆられる様子が影絵として写像されると独特の不気味さを醸し出します。
心臓音
影の劇場の隣の部屋では心臓の鼓動音が聞こえてきます。
ボルタンスキーは、世界中から無数の匿名個人の心臓音を収集し、日本の豊島に「心臓音のアーカイブ」として恒久的に展示するプロジェクトを2010年から開始しています。
この展示では、絶えず鳴り続ける鼓動音が数十秒おきに別の誰かの心臓に切り変わっていきます。規則正しい心臓音もあれば独特のリズムを刻む心臓音もあります。
部屋の中心には鼓動に応じて光の強さを変える赤色のランプ。心臓は生命の象徴。心臓の鼓動と共に真っ赤に照らし出される小部屋の中で「生きている」ということの重みについて意識させられます。
帰郷/眼差し
続いて、新館展示室へ移動。展示室に入ると部屋中に大きな目のついた薄手のカーテンが迷路のように張り巡らされたインスタレーション。空間の中心部には黄金色の山が。
大きな目に見つめられながら、ただただ室内を彷徨います。
アニミタス/ささやきの森
そして、最後の部屋。麦わらが敷き詰められた空間の中心には大型のスクリーン。そして風鈴の音。
暗い部屋、麦わらの匂いを嗅ぎ、踏み締めた時、最後の教室を思い出しました。

チリの4000mを超える高原に風鈴の音が鳴り響く「アニミタス」。その裏に回ると、荒涼とした大地から聞こえていた風鈴の音が、森の中の風鈴の響きに変わります。

この「豊島の森」は、2016年に瀬戸内海に浮かぶ豊島に設置されたボルタンスキーの作品。
いずれもとてもたどり着きにくい場所にある2つのプロジェクト。
「その場所に行かなくても、その場所を知っているということがより大事なのです」
作品は実物を観るだけではない。遠くのたどり着けない場所に作品があることを想像すること。その過程こそが重要だと言っているように聞こえます。
展示の感想!
入口付近にある映像ルームで27分間のボルタンスキーのインタビュー動画解説が連続放映されています。
ボルタンスキーは作品の雰囲気とは違って優しそうなおじさんだけど、その容貌や話し方とも相まって、まるでお坊さんみたいです。
印象に残った言葉は以下。
- 作品はちょっと不便な場所にあったほうが良い、その作品への旅から鑑賞は始まっている
- 一番つらいことは、老いや死を拒否する考え方。人は、その年齢や死ぬことを受け入れるべきだと思う
- 宗教は「答え」があると思っているのでしょうが、私には疑問しかない
- 私の作品が日本人らしい、と言われるのはとても嬉しい。私の根底にあるものはホロコーストだが、日本人は私の作品から震災の経験を想起する。芸術作品はユニバーサルでなければいけない
- 作品を見る人が何かを感じ取ることで初めて作品は完成される。見る人は自分の人生を通して作品を見る
どれもなるほどなと感じたのですが、よくよく考えてみると、今回の庭園美術館での展覧会はとても近くて行きやすい場所にあります。そして、展示自体も、なにか地味で物足りないなと感じる人も多いかもしれないです。
でも、旧朝香宮邸に足を踏み入れて亡霊のささやきに耳を傾けた時、確かに私は旧朝香宮邸の歴史とそこで繰り広げられた人々の生き様を想起しました。
たとえ私の想像と実際の生活が全くかけ離れていたものであっても、時間的、空間的に離れた全く知らない“何者か”の存在に想いを馳せるその瞬間、その「心の旅」こそ、ボルタンスキーの作品テーマそのものなのではないかと感じました。
老いや死といった人間の誰しもが抱える重い命題を真っ向から向き合い、芸術作品として昇華していくボルタンスキーの冷静で鋭い眼差しを通して、人間の生き方について考えさせられた一日になりました。
最後に!!
ボルタンスキーは2019年に東京・六本木の新国立美術館での回顧展が開かれ、大阪市や長崎市にも巡回するということで、3年後がとても楽しみです。
あと、土日祝は美術館の本館の撮影が禁止だけれど、平日は撮影できるので、平日に行ける方は絶対平日の方がオススメ。
ちなみに11月25日(金)、26日(土) 、27日(日)は夜間開館があり、20時まで開いています。ボルタンスキーの作品は夜が似合うので、多少混雑するかもしれませんが、夜の庭園で亡霊を感じるのも趣がありますね。
そしてこの展覧会を見てボルタンスキーに興味を持った方は、越後妻有や豊島にも、足を運ぶことをオススメします!
【基本データ】
【名称】クリスチャン・ボルタンスキー 「アニミタス-さざめく亡霊たち」
【会期】2016年9月22日~12月25日
【会場】東京都庭園美術館
【住所】東京都港区白金台5-21-9
【電話】03-3443-0201(代表)
【開館時間】10:00~18:00(入館は17:30まで)
【休館日】毎月第2・第4水曜日(祝日の場合は開館、翌日休館)、年末年始
【入館料】一般 900円 / 大学生(専修・各種専門学校含む) 720円 / 中・高校生・65歳以上 450円
【公式サイト】www.teien-art-museum.ne.jp