やあやあ、能ある鷹h氏(@noaru_takahshi)だよ。当ブログの記事をお読みいただきありがとうございます。
今は社宅暮らしの私ですが、「いつかはマイホーム!」という気概だけは持っています。
でも新築戸建で都心に住むのは経済的にほぼ不可能。将来がどうなるか分からない日本のご時世、長期ローンの重い十字架は出来るだけ軽くしたい。
…なんてお考えの方も多いはず。そんな時流に応えるかのように、昨今のマイホームは「中古物件を買ってリノベーション」するのが流行っています。
中古リノベというとマンションを思い浮かべる人が多いと思いますが、最近は「戸建て+リノベ」を検討する人も増えているとか。
中古でも間取りから設備まですべて一新すれば見た目は新築となんら変わらないわけで、希望するエリアに最先端のハウスを持ちたい人にとっては合理的な選択肢といえそうです。
もちろん古くても趣のある部分やしっかり使える部分を残しつつ改修すれば、新旧がミックスした魅力的な空間が生まれます。
でも、実際やるとなるとリノベ費用がかさんでかえって高くついたりしないか?古い物件だけに耐久性は大丈夫か?といった心配ごともチラホラ。戸建ての場合はメンテナンスも大変そうです。
そんなことを考えながら事例を調べていると、今、建築界では戸建リノベのプロジェクトがかなりアツいのではということが分かってきました。
今回は戸建リノベの良さや、気になったプロジェクトを簡単にメモしておきたいと思います!
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リフォームとリノベーションの違い
まずリノベーションって何?というところから。リフォームという言葉もよく聞きますが違いはなんなのでしょうか。
「老朽化したものを改修し、元の状態(新築)に近づける」のがリフォーム。「古いものを評価・活用しながら改修し、既存空間をより良くする」のがリノベーションです。リノベーションの方がより包括的でクリエイティブな改修と言えそうですね。
リノベーションでは、表層的な空間の改修はもちろん、設備の配管、電気配線、床や壁の下地の更新、間取りの変更、耐震性や断熱性の向上といった等も同時に行うことが多いです。
新築住宅より戸建リノベが魅力的な理由
言わずもがなといった点も多くありますが、戸建リノベは、次の点で新築よりも優れていることが多いです。
- コストが安い
- 工期が短い
- 再建築不可でも対応可
国土交通省が出している「2016度住宅市場動向調査」によると、住宅の購入資金は、土地を購入した注文住宅新築世帯で平均 4,194 万円、分譲戸建住宅の取得世帯で平均 3,810 万円、中古戸建住宅の取得世帯で 平均 2,693 万円。リフォーム資金は平均 227 万円となっています。
自己資金比率をみると、土地を購入した注文住宅新築世帯で 30.9%、分譲戸建住宅の取得世帯が26.9%、中古戸建住宅の取得世帯が 43.0%、リフォーム住宅世帯では 87.4%です。
新築戸建と中古戸建+リフォームを比べても、800万〜1000万円程度は中古住宅の方が安いということが言えそうですね。
既存住戸の建て替えと比べてもリノベーションなら、既存の躯体を利用する分、解体費用や廃材処分費用が少なく済みます。建て替えの半額程度の費用でリノベーション可能な場合もあります。
木造住宅
費用が小さいと、ローンの期間も短縮出来るので住み替えもしやすいので、将来のリスクに備えることに繋がりますね。
またリノベーションの方が新築よりも工期が短くて済みます。注文住宅の場合は工事に3~4ヶ月かかりますが、リノベーションなら2ヶ月程度で済みます。
都心部の場合は人気エリアに住宅が集中しがちで、新築物件が市場に出回りにくいこともありますが、中古なら大体どんなタイミングでもある程度物件が探せるというメリットもあります。さらにリノベーションでは、建物の構造をいじらないので再建築不可物件でも対応可能です。住宅の立地に選択肢が広がるというメリットもあります。
さらに言えば、リノベーションは低コストであらゆる場所で活用できる手法なので、日本の社会問題となっている過剰住宅供給や空家問題や、日本の経済構造(税法における減価償却資産の耐用年数と材寿命とのギャップ、土地のみが資産とみなされる社会通念)の矛盾といった諸問題解決の糸口になりうる手法といえます。
- 味のある古民家を現代的に住み継ぐ
- 住宅に新たな機能を付加する
といった住み手の要望に柔軟に応えることも可能であり、すでにあるものを活用することによるメリットはたくさんあるわけです。
気になっている戸建リノベプロジェクト
それでは個人的に面白いと思っている戸建リノベプロジェクトをご紹介したいと思います。
リノベーションの目的によって設計やデザインも大きく異なることから、
- 居住者が快適に住みつづけるために改修する
- 住宅に新しい機能を付加するために改修する
の2つの目的に分けてそれぞれ事例を見てみたいと思います。
1.居住者が住みつづけるために改修する
<古民家を現代風にする>
いわゆる築数十年を超える趣ある古民家に手を入れて住みやすくするとともに、新旧の対比を楽しむリノベーションです。
東古佐の家
高橋真之 / masayuki takahashi design studio+堤庸策 / arbolが設計した兵庫県の古民家のリノベーション。
兵庫県篠山市という自然豊かな里山と田園風景が残る集落の一画に建つ、築50年以上の伝統的な農家住宅を改修した家です。
味のある木造の躯体に水平/垂直を意識したモノトーンのモダンな壁と床がミックスされています。
都会から移住した3人家族が施主であり、夫婦の生活スタイルに沿うよう、余白をつくりながら部屋ごとに異なる素材や雰囲気が与えられています。
紫竹西南町の住宅
京都の町家や長屋のリノベーションにおいて注目される若手建築家、魚谷繁礼氏のリノベーションプロジェクト。
袋路奥の老朽化した建物を改修することにより、歴史ある住宅の保存・再生のモデルを示すとともに,まちなみ・地割などを継承することができます。
周辺の立地条件を踏まえて、通り土間や吹き抜け、ハイサイドライト、トップライト等を設置して自然環境を屋内に取り込んだり、古材・建具・畳を再利用して無駄のない資材計画とするなど多くの工夫がなされています。
<ハウスメーカーの住宅を改修する>
味のある古民家ではなく、ハウスメーカーなどの一般的な住宅を改修した事例もあります。
貝沢の家
藤野高志 / 生物建築舎が設計した実家の改修です。
築38年の藤野氏の実家を、設計に8年、施工に1年半をかけて改修したそうです。
特徴は屋根の中央部分、その下の2階および1階床を撤去して大きな空隙を作っているところ。屋根をペアガラスのトップライト、床を真砂土舗装することで屋内だけれども屋外のような解放的な空間を作り上げています。
生田の家
浦木建築設計事務所によるハウスメーカー軽量鉄骨プレハブ造の中古住宅リノベーション。
築37年が経過したハウスメーカーのプレハブ住宅。一般的にハウスメーカーの住宅は建築家の作品になりにくいものと捉えられがちですが、創成期のシンプルかつ合理的な工法システムを活かして軽やかな空間を実現しています。
<減築する>
リノベーションというと躯体をそのまま残す方法が主流ですが、場合によってはあえて面積を減らして外構を充実させる方法もあります。
減築した家
ルーヴィスと施主の共同設計による築43年(昭和45年築)の古い木造住宅を施主と共に設計しリノベーションしたプロジェクト。
施主は3人家族。竣工4年前に神奈川県鎌倉市に引越してきました。以前の住人は小説家であったため、玄関部分には編集者の待合室があるなど、面積は広いのに施主の生活スタイルに適合したものではありませんでした。
減築することで、コンパクトな住まいによる省エネ化、メンテナンスコストの軽減、家族の密度感を調整することができます。また、敷地内に駐車場を作りたいという要望を叶えることができました。
この家の特徴は、減築した断面がそのまま分かるようなモルタルのファサード。非常にシンプルなデザインとなっており、古いものと調和した味わいや暖かさを感じられます。
2.住宅に新しい機能を付加するために改修する
単に快適に暮らすためだけでなく、新しい機能を付加するためにリノベーションを行う事例もあります。
<シェアハウスに変える>
住宅は1家族のためのものですが、これを複数人が住む家に変えるアイディアです。
不動前ハウス
常山未央 / mnmによる東京都品川区の戸建て住宅をリノベーションしたシェアハウス。住宅は住むための空間ですが、そこに他者を許容できるような機能を付加するためのリノベーションです。
7人が一つの家をシェアして住むことにより、一人当たりにかかる居住コストを大きく減らすことができます。大きなリビング、寝そべられるバスタブ、広いキッチン、緑が生い茂る庭など一人で住むのでは得がたい豊かな住空間を都心に持つことが可能になります。
寝室を最小限にし、大きなリビングを確保することでよりパブリックな性格をもたせたり、外壁側にぐるりと廊下を回して寝室を配置するすることで縁側のような空間をつくるなど、他人と関わり合いが持てるシェアハウスのデザインとなっています。
<カフェをつくる>
経堂のカフェ併用住宅
成瀬・猪熊建築設計事務所による住居とカフェという異なる要素を共存させたリノベーション。企画はリビタ。
躯体は補強しつつほぼそのまま残されているものの、1階がカフェになるように大きく開口が取られていたり、コーヒー焙煎機の煙突が延びるため、2階の開口位置を右にずらしたり、カフェとして成立させるための工夫が多くなされています。
普通の住宅でもおしゃれなカフェになりうるという勇気付けられるプロジェクトです。
<アートギャラリーをつくる>
Diamant / Glass Art Gallery & Residence
村田純 / JAMが設計した大阪市内の一画、大和川流域に程近い場所に建つ住宅のリノベーション。
1FがRC造、2・3Fが木造の建物をリノベーションし、広い収蔵面積を持つ倉庫と小さなプライベート展示、そして来日時の宿泊・事務エリアが配置されています。
特徴は1階ファサードのガラスブロック。このランダムパターンは、透過率や規格、材料や施工にかかるコストなどの細かな条件をプログラミングし、アルゴリズミックな生成モデルによるスタディを重ねた上で決定されています。
手を入れるところを最小限としながら、大きく住宅の印象を変えるツボを押さえたリノベーションといえます。
<文化複合施設にする>
HAGISO
HAGISOは宮崎 晃吉氏が改修設計を行った木造アパートのリノベーションプロジェクトです。宮崎氏が元々住んでいた木造アパート「萩荘」を改修し、「最小文化複合施設」としてリノベーションしました。
小さな木造アパートながら、ギャラリー、カフェ、レンタルスペース、美容室、アトリエ、設計事務所が複合した施設になっています。
特徴は設計者の宮崎氏がデザインはもちろん、建物自体を所有し、運営も行っているところです。小さな建築ながら多くの人々を巻き込み、大きなムーブメントを起こす強い力を感じるプロジェクトです。
3.番外編
<転売を目的とする>
つつじヶ丘の家
長坂常 / スキーマ建築計画+明治大学門脇耕三構法計画研究室が改修を手掛けた、東京都調布市のプロジェクトです。
施主は門脇耕三本人で、築35年経つ古家の転売を目的として住宅の改修に至った物件となります。
この家の前面道路は二項道路(幅4m以下の道路)であるため、建築基準法上、新築にすると道路幅を4m以上確保するためセットバックしなければならず、その結果、敷地及び容積の面積が減り住宅の床面積が減ってしまうことになります。床面積は経済価値そのものなので、それを維持することがこの土地の価値を上げることにつながります。
一方で住宅における転売を目的とした改修はほぼ前例がなく、改修費用と経済価値の上昇の費用対効果が全く未知の世界でもあります。もともと建物に価値のない古家扱いで購入していることから、仮に転売したとしても土地代が変わらなければ同額で売れることになります。その間賃貸で住んだと考え、その家賃分でその実験を実行したそうです。
家の1室を、店舗などの仕事場として利用可能な「土間」にリノベーションすることで住宅だけでない多様な活動を許容することが想定されています。実験住宅という位置付けですが、実際に市場価値は増加したのかが気になるところですね。
最後に!!
以上、個人的に気になっている戸建リノベプロジェクトをご紹介しました。
スクラップビルドによって発展してきた日本ですら、いまや「保存」が重要視されています。短期的で表層的で消費的になってしまっている現代で、これまで存在してきた古いものと日進月歩で発展する新しい技術・文化を組み合わせる面白さが今の時代にはあると感じました。
しかし、そうした「リノベーションブーム」を調べてみるとその改修デザインは、「劇的!ビフォー・アフター」のように骨格だけを残して全く別物の家にしてしまうか、歴史的価値を考慮することなくただただ自由なものばかりが目立ちます。
個人的にはそれは前述した「リフォーム」に近い手法で、今回ご紹介したような家の記憶を残しつつ、新しい建築の価値を付加するようなプロジェクトは少なかったように思えます。
リノベーションの対象となる家は決して歴史的建造物に位置付けられるような立派なものではありません。
ハウスメーカーや工務店などが建てた希少性が高いとはいえない物件がほとんどで、仮に歴史的な価値があったとしても木造の町家や在来工法といったアノニマスな建物が対象です。
でも、古い住宅には新築にはない価値があります。今は製造されていないガラスや建具、照明や建材、経年変化し味わいのある床や壁など古いものでしか成し得ない価値は確かに存在します。
もちろんどの古い家も同様に素敵なわけではないと思います。その年月どれくらい住み手によって住宅がメンテナンスされてきたか、その愛着度によって家の寿命は大きく異なりますし、その空間の魅力も異なります。
古いものを面白がり、価値を見出し、古い空間の味わいに現代的な素材や最新の設備を重ね合わせることで「機能性・暮らしやすさ」と「古い家の魅力」を両立させる。このことがリノベプロジェクトを魅力的にする一番大事なことかなと感じました。
そして、こうしたリノベプロジェクトが増えることで、多くの住み手の方々がただ経済的に住宅を消費するのではなく、「住宅をどう大切に扱っていくか」に意識がシフトしていけばもっと街が魅力的になっていくのではないかなと感じました。
そんなことを考えながら、これからの住宅業界の動向を見守りたいと思います。
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