やあやあ、能ある鷹h氏(@noaru_takahshi)だよ。
私は大学、大学院と建築を学んできた建築系の人間なのですが、紆余曲折あって現在は造成やインフラ整備を中心としたまちづくり現場という、土木がメインの領域に関わっています。
さて、この「建築」と「土木」。皆さんは違いって分かりますか?
どっちの現場でも、クレーンやショベルカーなどの重機が登場したり、コンクリートや鉄を使ったりするので、ほとんど一緒なんじゃないかと思っている人も多いんじゃないかと思います。
土木と建築を合わせて「建設」と呼んでいる場合もありますが、これらの事業に携わる人間は、両者を別物として捉えていることがほとんどです。
個人的な見解で恐縮ですが、建築業界のイメージは
- カッコイイものや目立つものを作りたがる。
- 納まり(表層の見栄え)にこだわる。
- 団体行動が苦手。勝手気まま。
- 他人からああだこうだ言われるのが嫌い。
- 街中での仕事が多い。
- 民間の仕事が多い。
土木業界のイメージは
- 安全性がなによりも重要で見栄えは二の次。
- チームワーク重視。
- 熱血漢で人情派。
- ガタイが良い。マッチョ。
- 人里離れた場所での仕事が多い。
- 公共の仕事が多い。
みたいな感じですかね。
建築と土木のすみ分けは地面の下が土木で、地面の上が建築の領域とよく言われます。
具体的に言えば土木工事は「橋・高架道路・ダム・トンネル・道路・宅地造成など」で、建築工事は「ビル・マンション・戸建て住宅など」を対象にしています。
山・森林・川・海等の自然を相手にして地面を人間が使いやすく整備するのが土木で、土木が構築した人工の環境に人が安全で快適に暮らせるようにするのが建築ということですかねー。
でも、空港や地下街、立体駐車場のように土木と建築が一緒になっているものもあります。公園や橋を建築家の人がデザインしたりするし。。。うーん、ダメだ、あんまり正確に区別出来ない!
実は先日飲み会で「建築と土木の違いって結局なんなの?」という話題になったので、今回はその問題をちょこっと深堀して簡単にメモしておこうと思います。
といってもコンクリートの強度基準みたいな技術的違いなどは分からないので、建築業界と土木業界についてざっくりした個人的所見です。ついでに古今東西、建築と土木が一体となった建設プロジェクトもご紹介したいと思います。
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「建築」ってなに??
wikipedia先生にご登場願いましょう。
建築(けんちく)とは、人間が活動するための空間を内部に持った構造物を、計画、設計、施工そして使用するに至るまでの行為の過程全体、あるいは一部のこと。また、そのような行為によって作られた構造物そのものを指すこともある。ただし、本来後者は建築物と呼ぶのが適切である。
とのこと。人間が活動するための空間を内部に持った構造物。うーむ。「人間」が活動することを前提に作られているというところがミソですかね。
日本の建築基準法を見て見ますと、第二条第一項で、「建築物」を以下のように定義しています。
土地に定着する工作物のうち、屋根及び柱若しくは壁を有するもの(これに類する構造のものを含む。)、これに附属する門若しくは塀、観覧のための工作物又は地下若しくは高架の工作物内に設ける事務所、店舗、興行場、倉庫その他これらに類する施設(鉄道及び軌道の線路敷地内の運転保安に関する施設並びに跨線橋、プラットホームの上家、貯蔵槽その他これらに類する施設を除く。)をいい、建築設備を含むものとする。
「土地に定着する工作物のうち、屋根及び柱若しくは壁を有するもの(これに類する構造のものを含む。)」っていう文言がイメージしやすいですね。
ちなみに「工作物」っていうのは定義されてないのですが、「地上または地中に、人工的に製作し設置されたもの」を指します。
つまり、人為的に作った雨風を防ぐ屋根や壁的なものが建築の必須条件。これがあって人が活動できるようになるわけですね。その後にずらずらと続く文言は色々と例外が出てくるので付け足したものなので割愛。
いくら雨風防げても「自然にできた洞窟」なんかは建築に含まれませんね。
じゃあ人間が住めるけど移動もできるトレーラーハウスはどうなの?
日本トレーラーハウス協会によれば、
建築基準法第2条第1号で規定する建築物に該当しない条件
- 随時かつ任意に移動できる状態で設置すること。
- 土地側のライフラインの接続方法が工具を使用しないで着脱できること。
- 適法に公道を移動できる自動車であること。
自動車等(適法に公道を移動できるトレーラーハウスを含む)が土地に定置して、土地側の電気・ガス・水道等と接続した時点で建築基準法の適用を受けます。
逆に土地側のライフラインと接続しない場合、自動車として扱われ、建築基準法の適用を受けません。
なるほど。電気ガス水道のインフラに接続しちゃうと「建築物」とみなされるわけですね。街を歩いていると古い鉄道車両やバスなんかを置いてカフェとかに使ってる例がありますが、こちらも建築と見なすって判例が出ています。
法律的解釈は難しいですがなんとなく、建築についてイメージ出来たのではないでしょうか。建築は対象となる工作物が厳密に定められているわけです。
「土木」とは何か??
じゃあ今度は土木って何??これまたwikipedia先生に頼ると、
【土木事業】
土木事業(どぼくじぎょう) 建設事業のうち、建築事業以外の事業の呼称。都市計画事業・都市建設事業のうち、土木分野の事業もいう。
ざっくりいうと土木は、「建築以外」の工作物、構造物っていうことになります。土木は英語でcivil engineeringと言うくらいなので、領域がとてつもなく広いんですね。
そして土木は建築と違ってダム、橋、道路、宅地造成等、それぞれによって全く用途や設計基準が異なるので、「建築基準法」のように統一した法律はありません。
もちろん道路だったら道路法や構造令、ダムや堤防だったら河川管理施設等構造令なんかがあって、それぞれの設計基準で設計されます。
建築は意匠・構造・設備が三位一体となって設計されますが、実は土木ってそれぞれ関係なくても結構成立しちゃうところも面白いですね。
「建築」というのは工作物の中でもかなり特殊な工作物なのだということが分かってきます。。。
土木と建築が一体となったプロジェクト
そんなわけで一般的には「土木」と「建築」というのは法律によって領域が住み分けられて別々に設計され、街が形作られていることが分かりました。
しかしながら、実際に街を眺めてみると、堤防の上にマンションが建っていたり、地下駐車場の上が公園になっていたり、なんだか土木と建築が一体化してよく分からないことになっている構造物も実は多くあります。
そうしたもの以外にも、むしろ計画的に美観よく建築と土木を統合しようとするプロジェクトもあります。
そんな土木と建築が一体となった面白いプロジェクトを古今東西、ざっくり集めてみたのでご紹介したいと思います!
Ponte Vecchio(ポンテヴェッキオ)
まずは世界遺産からお知恵を拝借!ポンテ・ヴェッキオはイタリアのフィレンツェを流れるアルノ川に架かる橋。直訳すると”古い橋”。いつ頃から古いと言われているのか分かりませんが、フィレンツェ最古の橋であり、先の大戦を生き延びたフィレンツェ唯一の橋です。
この橋の上には、ジュエリー屋さんがずらりと並び、橋と建築が一体化しています。イタリアの建築関連の法令は不勉強なのですが、これは橋だけど建築物に該当するんですかね。。
姫路城
続いては姫路城!!お城というと建築物というイメージが強いと思いますが、見てくださいこの石垣!!
姫路城の縄張は、抵抗(防御)線が3重の螺旋形になった複雑巧妙なもの。建築事業と土木事業が一体となった見事な建設事業です。
特に姫路城は、
- その美的完成度が我が国の木造建築の最高の位置にあり、世界的にも他に類のない優れたものであること。
- 17世紀初頭の城郭建築の最盛期に、天守群を中心に、櫓、門、土塀等の建造物や石垣、堀などの土木建築物が良好に保存され、防御に工夫した日本独自の城郭の構造を最もよく示した城であること。
上記の理由から世界遺産に登録されています。こんな土木と建設を一体的に考えた理想的な建設事業、現代じゃなかなかないんじゃないかなー。
メイド・イン・トーキョー
続いては現代の日本に見られる構造物をご紹介します。
![]() ◆◆メイド・イン・トーキョー / 貝島桃代/著 黒田潤三/著 塚本由晴/著 / 鹿島出版会 |
「メイド・イン・トーキョー」は建築家のアトリエワンと黒田潤三による、東京に建つ無名の面白建築をガイドブック形式にまとめた書籍。ここでは建築的な美学に捕らわれることなく、土木や建築といったカテゴリーを無視した複合や無関係な用途の同居、隣接建物の構造的一体使用などの特徴を持つ建物を「ダメ建築」と呼び、都市環境における多様なまとまりとして捉えています。。

例えばこの「カータワー」は自動車に関連する機能をひとまとめにしてしまったもの。土木の領域である道路がスロープとして建物の外周に巻かれている様子はとっても滑稽。

こちらは「下水コート」。下水処理場の上をオフィスや球技場という人々が活動するための施設にしています。土木構造物の上が何もないのはもったいないという日本人的発想の構造物です。
他にも「生コンアパート」や「スーパー・カー・スクール」、「ハイウェイデパート」「堤防マンション」などなど、土木と建築が一体になった不思議な構造物がたくさん集められています。(どれもきっと法規的には建築基準法に適合しているはず!)
メイドイントーキョーで紹介されている事例に近いものとして、近年では以下のような建築もありますね。
大橋ジャンクション
高速道路のジャンクションに人の居場所がくっついているチャレンジングな構造物。
首都高速道路3号線と中央環状線とを結ぶ大橋ジャンクション建設のためにはどうしても広大な土地が必要でした。もともとこの場所は東急バスの車庫と中低層階の家屋が建ち並ぶエリアだったため、東京都はジャンクション建設の見返りとして、ループに隣接した敷地再開発エリアに指定し、超高層ビル型のタワーマンション2棟と公共施設の開発を不動産デベロッパーと共同で行いました。
ループの屋上部分は公園として緑化され、周囲のマンションと直結した目黒天空庭園として整備されています。2004年に都市公園法が改正されて立体都市公園制度ができたことにより、民間施設の上部に公園をつくることが可能になったそうです。
品川シーズンテラス
東京都が下水処理場「芝浦水再生センター」を改修する際に、その上部に30年間の借地権を設定して、これを、民間デベロッパーと東京都の第三セクターである東京都市開発が参画するグループが落札。
幅約110m・長さ約84mで高さが約17m~約22mの貯留池の上に作られた人工地盤の上に、約3.5haの緑地と、地上32階・地下1階建ての高層ビルが建設されました。
下水処理場の上に建設されている構造を生かして外気に比べて安定的な温度となっている下水の熱を利用した空調を導入するなど工夫がなされている様子。
この高層ビルの約半分は東京都の所有となり、ビル賃貸の収益から下水道事業の運営経費の一部を充当するという経済的にも土木と建築が一体となった面白い事例です。
象の花パーク / 小泉雅生
最後は、土木的構造物を建築家がデザインするという事例です。
「象の鼻パーク/テラス」は小泉雅生が設計した横浜の公園。土木構造物である防波堤に建築的特徴であるデザインを取り入れた事例です。
パーク内に配置された弧を描くように徐々に大きくなっていくスクリーンパネルは、夜になると時間帯によって色の変えて美しい光のサークルを形成します。
「象の鼻テラス」は、開港の丘に位置し、横浜三塔などのランドマークへの景観を阻害しないように設計され、芝生のランドスケープと一体化した半分地面に埋もれたような建物です。
波止場という土木の領域に、建築家の丁寧な想像力が加わることによってたくさんの人の居場所を作り出している好例だと思います。
1111 Lincoln Road in Miami / Herzog & de Meuron
マイアミに建つカッコよすぎる立体駐車場。都市デベロッパーのロバート・ウェネットとともにスイスの建築事務所であるヘルツォーク&ド・ムーロンが設計を担当しました。
普通、立体駐車場ってほとんど斜路の幅と勾配、駐車台数から自動的に大きさと形が決まってしまうのですが、この建築は全くアプローチが異なります。目障りになる配管の露出はなく、全方向から自然光が差し込み、ポーランド人芸術家の彫刻など、アート作品まで展示されています。
この建物、実は商業施設とラグジュアリーな住宅を収めた複合ビルになっており、駐車場にもかかわらず、マイアミの景観を向上させるためにたくさんのデザイン的配慮がなされているのです。
一般的には隠されたものになりがちな土木的な仕事に、建築やアートの要素が入ることによって、立体駐車場が街のランドマークにもなるという、デザインの可能性を象徴する構造物だと思います。
Metro de Bilbao(メトロ・ビルバオ) / ノーマン・フォスター
デザインを観光資源として戦略的に扱っている都市・ビルバオの地下鉄計画。
建築家のノーマン・フォスターによって総合的なデザインがなされ、使われている素材は鉄とコンクリートとガラスの3種類のみ。無機質・シンプルなスタイリッシュミニマルデザイン。
近未来的な見た目のメトロ出入口は、駅の内部構造とともにデザインの統一がなされています。改札も同一デザイン!
日本でも建築家の安藤忠雄さんが東京メトロ副都心線の渋谷駅を設計担当したことが以前話題になりましたが、あくまでも渋谷駅の一部のみ。
メトロ・ビルバオでは総合的に建築的デザインが取り入れられているところに意識の高さを感じます。
最後に!!
以上、建築と土木の相違点やお互いの領域を横断した計画の事例についてご紹介しました!
土木というと一見地味で質実剛健、建築というと派手でチャラチャラしたイメージですが、そのいずれも街を作っていく上では必要な要素です。
土木・建築の二つの知見が重なるところに、より合理的で面白い街づくりにつながる可能性があるんじゃないかと感じました。
皆さんも街中で不思議な構造物を見つけたら、土木と建築の境界を探ってみると楽しいかもしれませんよ!!